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過敏性腸症候群
あまり聞き慣れない病気の名前です。腹痛や腹部膨満感などの腹部症状と下痢や便秘を繰り返すなどの便通障害を伴う病気です。しかも、細菌性大腸炎などの感染症、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、大腸がんなどのがん、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患や子宮内膜症などの婦人科疾患ではないことが条件となります。
病気の原因のほとんどが精神的ストレスによると考えられています。しかも、ほとんど全ての方が似たような体験をこれまでにすでになさっています。例えば、試験勉強が十分にできていないのに学校に行かなければならない、友達とけんかをした翌日などは仮病ではなく、本当にお腹が痛くなったり、緊張して下痢をした経験はどなたにでもあるはずです。
緊張するとすぐにお腹が痛くなったり、下痢をする方は意外に多いものです。腹痛などの腹部症状と便通障害のある方は、一度この病気を疑ってみてください。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍とピロリ菌感染
「ヘリコバクター・ピロリ」(ピロリ菌)と言う細菌が胃の中に存在し、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性胃炎や一部のリンパ腫を引き起こすことが明らかとなりました。さらに、胃がんの原因菌ではないか?との疑いも深まってきています。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸が多く出過ぎることが原因と考えられてきました。この事実は、いまだに変わりません。これまでは、ストレス、アルコール、コーヒーなどの胃粘膜に対する攻撃因子と、直接攻撃を守る粘液、血流、アルカリ性の粘液などの防御因子が通常ではうまくバランスを保っているが、攻撃因子が上回った時に潰瘍を作る、と考えられていました。ところが、大きな攻撃因子であるピロリ菌の存在が明らかとなり、「胃潰瘍は感染症である」との新しい考え方を取り入れることが必要となりました。
ピロリ菌の感染診断には5種類の方法があります。
内視鏡検査時:胃粘膜の培養、組織診断、ウレアーゼテスト(ウレアーゼテスト:ピロリ菌の酵素活性の検査)
内視鏡を用いない方法:抗体検査、尿素呼気試験
胃潰瘍、十二指腸潰瘍の治療は、ピロリ菌感染の有無により大きく異なります。ピロリ菌陽性の場合はこれまでとは異なり、「除菌治療」といってピロリ菌を殺す抗菌剤を含んだ潰瘍治療が必要となります。強力な潰瘍治療薬と2種類の抗菌剤を1日2回に分けて1週間服用します。その後は、通常の潰瘍治療を行います。
潰瘍治療の基本は、胃潰瘍は8週間、十二指腸潰瘍は6週間潰瘍治療薬を服用することです。したがって、改善判定の検査はこの時期を目安に行います。同時に、ピロリ菌の除菌が成功したかどうかの検査も受けてください。除菌治療の判定は、抗菌剤を含んだ除菌治療終了後4週間以降、プロトンポンプ阻害薬という強い潰瘍治療薬やピロリ菌に作用のある胃粘膜保護剤の服用を4週間以上中止した後に行うことが決められていますから、治療方法により異なります。検査の時期については、主治医の先生と相談をして決めてください。
尿素呼気試験
「尿素呼気試験」、聞き慣れない、難しそうな検査の名前です。内視鏡検査を必要としないヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染診断検査方法のことです。尿素呼気試験には、内視鏡検査にはない以下のような利点があります。
尿素呼気試験の利点
- 内視鏡検査を受けなくて良いので、ほとんど苦痛がありません。
- 検査時間は20分、測定時間は5.5分と短時間で終了しますから、測定装置があれば30分で検査結果を知ることができます。
- 胃粘膜全体を検査するので、きちんと診断が可能です。
- したがって、除菌療法の判定に適しています。
実際の検査方法
- まず、試験薬を服用する前に、呼気バッグに息を吹き込みます。
- 100mlの水に溶かした試験薬を服用します。
- 左側を下にして、5分間ベット上で安静にします。
- 15分間座位にて安静にします。
- 合計20分後、再び呼気バッグに息を吹き込みます。
注意点
- 胃粘膜の検査ですから、空腹時に検査を受けてください。
- 繰り返す胃・十二指腸潰瘍で困っている方、慢性胃炎の種々の症状でお困りの方、胃がん家系の方などでご心配の方は、かかりつけの先生または当クリニックまでご相談ください。
ピロリ菌の感染経路
らせん状の細菌であるヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因菌であることは、広く知られるようになりました。特に、ピロリ菌陽性の潰瘍の患者様に対して除菌治療を行うと、ほとんど潰瘍の再発が見られないことより、その重要性がよく分かります。
ピロリ菌はどのようにして感染するのでしょうか?感染の機会はどこにあるのでしょうか?
この回答は、小児科の先生方の研究結果が参考になります。ただし、児童は免疫力が十分に発達しておらず、特に抗体を産出するB細胞が未成熟なため、感染していても抗体検査では陰性となることもあります。したがって、便の中のピロリ菌の検査がより良い検査と言えます。和歌山県立医科大学の研究グループの成績では、両親ともピロリ菌抗体陽性の小児では50%、片親のみ陽性の小児の25%が便中にピロリ菌抗原を排出しており、両親とも陰性であった小児は9名全員が陰性でした。したがって、家庭内が感染場所であると考えられます。(注1)
家庭内と言えども、夫婦間での感染はまれと考えられています。
いまだに結論は得られていませんが、現時点における感染経路は以下の如く考えられています。
- 通常の生活では、簡単には感染しない
- 感染防御には衛生状態の改善が有効である
- 感染様式は、口-口感染、糞-口感染である
- 家庭内感染が考えられるが、夫婦間感染はまれである
- 親子感染が多く、幼児期に感染している可能性が高い
- 共同生活時間の長い保育園も感染場所と考えられますが、保菌者がすべて潰瘍になることはないので、差別の原因とならないようにプライバシーの保護を十分に考慮しましょう。
乳幼児のお母様方へのご注意
現在、有力な感染ルートの一つは、母親→赤ちゃんへの口移しで食べ物を与えることです。特に離乳食を与える時に、熱い食べ物をいったん母親が口の中に入れて冷ました状態で赤ちゃんに与えますが、同時にピロリ菌を感染させている可能性があります。1回のみでは感染しないと思われますが、毎日毎日繰り返すことにより感染が成立する可能性がありますので、注意してください。
(注1)参考文献
1)小池通夫、奥田真珠美:日本医師会雑誌、126:M-34、2001
「ノロウイルス」って何だ -冬の嘔吐・下痢症について-
1)冬に嘔吐・下痢を来す疾患
風邪の一つとしての「ロタウイルス感染症」
主に小児の風邪として流行しますが、成人もウイルス量が多ければ罹患します
食中毒としての「ノロウイルス感染症」
主に「カキ」を食した後に発症します。かきのシーズンですから、主に冬。
2)下痢をきたす風邪
風邪症状を来すウイルスは約200以上あり、その半数以上が消化器症状を来します。
ロタウイルスは、抗体を獲得していない小児に多く発症します。以前は「小児嘔吐下痢症」と呼ばれていましたが、ウイルスが同定され、車軸の様な形をしているのでロタウイルスと呼ばれます。
3)ノロウイルスについて
ウイルスが小さく(インフルエンザウイルスの1/10)球形であることより、以前は「小型球形ウイルス」と呼ばれていた食中毒を来すウイルスです。1968年、米国オハイオ州ノーウォークの児童に流行し、その後ウイルスが同定され、ノーウォークウイルスと呼ばれていました。日本でも札幌で集団発生した症例からウイルスが検出され、サッポロウイルスと呼ばれていました。
2002年国際ウイルス学会でそれぞれノロウイルス、サポウイルスと呼称することになりました。すなわち、小型球形ウイルスの中で、ノーウォークウイルスと呼称されていたウイルスをノロウイルスと呼び変えています。
4)原因食品
カキなどの2枚貝がウイルスの中間宿主となりますが、多くの場合「カキ」が原因食品となっています。
5)潜伏期・症状
原因食品を摂取後、1~2日で発症します。
症状は軽症であることが多く、自覚症状がなく軽い風邪程度のこともあります。
嘔吐、腹痛、下痢、発熱で、下痢が著しい時には脱水状態となります。
6)感染経路
- 経口感染で食品を介して感染します。
- まな板、包丁などを不潔にしていると、調理器具を介して感染することもあります。消毒には、塩素系の薬剤と熱湯が有効です。
- 患者様の吐物や下痢便、オムツなどを介してヒト⇒ヒト感染も起こります。
また、症状が消失しても、1週間、長い時は1カ月後もウイルスを排出している場合もあり、要注意です。感染しても軽い風邪の様な症状で終わることもあり、無症状の場合もありますが、それでもウイルスを排出します。
オムツなどが乾燥しても、ウイルスが浮遊して感染源となる場合もあります。
7)治療法
治療法は対症療法で、特に脱水の補正が重要です
8)予防法
カキを食べる時は注意しましょう。加熱用はナマでたべることはおすすめしないのと、
まな板などの調理器具は清潔にしましょう。熱と塩素系薬剤でノロウイルスを退治できます。85℃、1分の加熱がウイルスに有効です。
手洗いの励行が簡単ですが、大事です。患者様の汚物や吐物を処理した後は、丁寧に。症状は比較的軽症で終わることが多いウイルスですが、感染力は強力です。